書店でふと手にして読んだ文庫本、「異形の将軍・田中角栄の生涯」津本陽(幻冬舎文庫、上下)。
豪雪地の貧農の子として生まれ、 一国の宰相にまでのぼりつめた田中角栄という政治家の一生を史実に基づいて記されたこの一冊の本から私自信様々な想いを巡らせました・・・。
「あいつはいつも刑務所の塀の上を歩いているような奴だ。」と吉田 茂(元首相)をして言わしめた通り、 カネと権力を高らかに肯定し日本の高度成長を演出した情念の宰相・田中角栄。
残した足跡におけるその功罪は共に大きいのですが、どちらかというと「ロッキード事件」に象徴される「罪」 のイメージが強い政治家だったように思われます。
しかし、本書を通じて刻銘に角栄という人の人生を知る中で学ぶべきことの多さを感じました。
1.豪雪地の貧農の子として生まれ不遇な幼年期を過ごした角栄。
2.不遇な中にも自らの努力で独自の人生を歩みだす成長期。
3.太平洋戦争で一兵卒として中国に送られ、挫折と無念を味わう。
4.戦後、経験を活かし不屈の精神と努力でビジネス成功を手にする。
5.乞われて政治の道へ。
6.徹底した利権誘導の実践。故郷新潟への思い。
7.強烈なパーソナリティ、現実主義、行動力が国民の期待感を呼ぶ。
9.疑獄事件で失脚。
10.強運と持ち前の知恵と努力で政界復帰、中枢へ。
11.30代で最年少入閣。その後、党幹事長など要職を歴任。
12.政治とカネの密接な関係を知る。小佐野賢治氏との出会い。
13.政策実現を図る一方で錬金術を駆使。
14.官僚政治の打破を決意。
15.内閣総理大臣に・・・。
16.「日中国交回復」を実現。再び中国の地へ。
17.経済政策に失敗。世論批判高まる。
18.「ロッキード事件」発覚。
19.竹下 登「経世会」旗揚げ。田中軍団崩壊。
20.平成5年田中角栄死去 享年75歳。
本書の後書を新潟日報社の編集局次長はこう記しています。
津本氏は最後にメッセージを託し、角栄を綴る旅を終える。
「庶民のために果敢に公約を実行した角栄と、大仰な政策案をかかげながらも、
便々として政界に居座り続ける角栄以降のあまたの政治家を比べれば、
国民の多くの声なき声が、いまだに角栄を惜しむのも故無しとしない。」
政治の核心を突いて胸に迫る。
日本政治の再生のカギは、まさに政治を国民・庶民の手に取り戻すことにある。その意味では本書は、 国のありかたを憂う熱情の小説である・・・と。
あまりに激しく、すさまじいその人生には教科書や報道だけでは知りえない事実があります。その功罪は別として「一政治家の生きざま」 として頭に留めていかねばと感じます。
「ロッキード事件」が発覚した当時、私は九段にある都立高校に通っていました。
下校時校門の前で友人が、通りの向こう側にある公衆電話を指差し「あそこでピーナッツ(現金)の受け渡しがおこなわれたらしいよ!」 と言っていました。
その時は、「へぇ~」と受け流すだけで何も気に留めることのない私がそこにいました・・・。